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2010年4月21日:サンフランシスコ「フィルモア・オーディトリアム」公演レポート
April 21,CA The Fillmore,San Francisco
2010年4月21日:サンフランシスコ「フィルモア・オーディトリアム」公演4月21日(水)、最新アルバム『ザ・フォール』の公演が伝統的ライブ・ハウス、フィルモア・オーディトリアムにて行われた。過去にグレイトフル・デッド、ジャニス・ジョプリン、レッド・ツェッペリンやザ・フーなど蒼々たるアーティストが演奏しているこの会場。その当時の写真が飾られた会場ロビーはソールド・アウト公演とあって、この日を待ちに待った多くの人でごった返していた。
午後8時頃、オープニング・アクトとして登場したザ・フォール・ツアーのバンド・メンバーであり、ノラと旧知の仲であるサーシャ・ダブソンは、地元カリフォルニアでのライブとあってサックス奏者の弟も途中参加し、リラックスした美しい演奏を見せてくれた。午後9時過ぎから始まったノラのライブは「愛の名残り(I wouldn’t need you)」で幕を開けた。黒のタイトなトップとシルバーのショート・スカートに真っ赤な太めのベルトという出で立ちで、いつもお洒落なステージ衣装を見せてくれるノラは本日も期待を裏切らずキュート且つ大人っぽいファッションであった。現在配信中のiTunes Originals (http://itunes.apple.com/jp/album/itunes-originals/id353096921)によると、「愛の名残り」は前作のツアー中に「カム・アウェイ・ウィズ・ミー」のギター・リフとして演奏されていたメロディーから着想され生まれた曲との事。ノラの赤いフェンダー・ムスタングによるこのギター・リフでショーが始まるとは、ピアノ演奏のイメージが強かった彼女の昨今の音楽的変遷を象徴しているかのようであった。
コンサート前半は最新アルバムからの楽曲を中心に編成され、中央のギター位置からステージ左に置かれたエレクトリック・キーボードに移動すると、ファンからの声援に「スカートの下にはショーツを履いてるから期待しても無駄よ」と冗談を言いつつ、最新アルバムからのヒット曲「チェイジング・パイレーツ」や最新ビデオが公開になったばかりの「ヤング・ブラッド」などを演奏した。
再びギターを持って、セカンド・アルバム『フィールズ・ライク・ホーム』からトム・ウェイツ作の「ロング・ウェイ・ホーム」を披露。ベットサイド・ランプが置かれたアット・ホームな雰囲気のステージによく似合う楽曲であった。続いてステージ向かって右に設置されたアップライト・ピアノへ移ると、サード・アルバム『ノット・トゥ・レイト』から「シンキング・スーン」、そしてなんとザ・キンクスのカバー「ストレンジャーズ」などを披露した。ノラは毎回のツアーで様々なカバーを聞かせてくれるが、このザ・キンクスのカバーにも意表をつかれ彼女の音楽的幅の広さを改めて実感させられる演奏でもあった。また、ギターが比較的後期になって始めた楽器であるのに対しピアノは7歳頃に習い始めたとあって、水を得た魚のようなピアノの演奏に聴衆も歓声を送らずにはいられなかった。初々しいギター演奏も、それでまた味があるのだが。「次は明るめの曲よ!」という前置きで始まったのが、本人もキャッチーなシングルと形容している『サンライズ』。そして「愛犬のために作った曲」であるという「ひとときの恋人(Man of the Hour)」では、「厳格な菜食主義者とヘラヘラした怠け者、どっちもダメだと思ったから、私はあなたを選んだわ」という下りのところで「この街の人は良くわかるわよね」と一言入れ、笑いを誘った。ヒッピー文化のメッカであり環境問題への関心が高いサンフランススコならではの一幕であった。
代表曲「ドント・ノー・ホワイ」はピアノとバック・ボーカル2人のみのシンプルな編成で、さらにぐっと大人な雰囲気のアレンジになっており、名曲を新しく生まれ変わらせていた。
コンサートの最初から、「この会場にはノスタルジックな思い出があるの。」と感慨深げに語ったノラ。彼女は2002年にこの会場でウィリー・ネルソンのオープニング・アクトとして4公演に出演した。その当時のウィリーの写真は、多くの著名人の写真と並んで会場のロビーに飾ってある。ノラはライブ中「本当に今日フィルモアでライブができて光栄です。ありがとう。」と何度もコメントしていた。最後はアンコールを2度も行い、この公演がいかに特別であったかが心底伝わった、フィルモアの歴史にも残るであろう素晴らしい公演であった。本ツアーは6月のヨーロッパ公演も含め、2010年8月までの日程が発表されている。文・写真: Mai Sasaki
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2010年6月9日:ニューヨーク ブルックリン「プロスペクト・パーク」公演レポート
June 9th,Brooklyn,New York
2010年6月9日:ニューヨーク ブルックリン「プロスペクト・パーク」公演2010年6月9日火曜日。
どしゃぶりの雨の中、ブルックリンの公園プロスペクト・パークは、傘をさし、ノラ・ジョーンズの登場を待つ大勢の観客でにぎわっていました。
客席はステージにかなり近く、”ノラ・ジョーンズをこんなに間近で見られる機会はない!”と人が押し寄せ、一時、会場は混乱状態に。ノラの魅力は、人をここまでクレイジーにさせてしまうのか、と驚きました。そしてノラ・ジョーンズの登場。ドッド柄のワンピースで登場したノラ・ジョーンズには、会場からため息が漏れ、観客は、「かわいい!」と叫んでいました。
「雨の中来てくれてありがとう!みんな、もっと雨に打たれちゃいましょう!」
と言い、「ホワット・アム・アイ・トゥ・ユー(What am I to you)」を歌い始めるノラ。
今ブルックリンに住んでいるノラにとって、このライブへの思い入れは一入のよう。
ステージ上ではゆったりとした空気が流れ、雨に打たれ続ける中、観客はノラの歌声に聞きほれていました。「チェイシング・パイレーツ(Chasing pirates)」などの新曲を披露し、今までとは違った魅力を感じさせてくれたノラ。
「またノラのライブに行きたいね」と口々に語りあいながら、観客はブルックリンの街を後にするのでした。文 : Ayana Kizaki
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2011年4月8日:ニューヨーク 「Concert for Japan」チャリティ・ライヴ レポート
April 8th,Brooklyn,New York
2011年4月8日:ニューヨーク 「Concert for Japan」チャリティ・ライヴ4月8日(金曜日)ニューヨークから日本を支援するチャリティ・ライブ「Concerts for Japan」に、ノラ・ジョーンズが参加しました。この日のライブ会場は、ローワー・イーストサイドにあるABRONS ART CENTERというコミュニティセンターで、約400枚のチケットは即日ソールドアウト。ライブの収益金が、すべて日本の被災地に寄付されます。
ノラ・ジョーンズをこのような小さな劇場で見られるのは稀だということもあり、入り口には人がごった返し、ちょっとした混乱状態に。会場には、一流の音楽を楽しみながら日本を支援したいというアメリカ人が多く詰めかけました。このチャリティ・イベントの発起人、ジョン・ゾーンが「日本の震災に心を痛めている。同時に私の呼びかけで、こんなに多くのアーティストが集まったのは素晴らしいことだ。色んな想いを抱えて来ていると思うが、ぜひ楽しんでいってほしい」と挨拶をすると、ノラ・ジョーンズの親友であり、「ドント・ノー・ホワイ」の作者でもあるアーティスト、ジェシー・ハリス、さらにニューヨークで活躍しているジャズバンド、SEX MOBが登場。SEX MOBのメンバーが、「次に紹介するアーティストについては名前さえもよく知らないんだけど・・・」と話した途端、舞台の袖口からひょいっと現れたのが、なんとノラ・ジョーンズ。観客一同、SEX MOBのジョークに大笑いし、ノラを大きな拍手と歓声で迎えました。緑がかったグレイのワンピースを着て登場したノラは、少し大人っぽくなった印象だが、時に見せる笑顔には無邪気な子供のような愛らしさがたっぷり。
早速ピアノに手をおいたノラがSEX MOBと演奏し始めたのは、女優で歌手のドリス・デイが映画「知りすぎた男」の中で披露した「Whatever Will Be, Will Be(ケ・セラ・セラ)」。人生はなるようになる、明日のことなんて誰もわからない、というメッセージが込められている曲です。アップテンポのこの曲を、ノラはジャズのアレンジを交えて披露。久しぶりに生で聴くノラの声は、やはりスモーキー&ハニー。優しくもあり、切なくもあり、さらに今回の歌声にはいつも以上の力強さ、迫力も感じました。震災を受けたチャリティ・コンサートでこの曲を選んだのは、なぜなのか。その理由はノラ本人から発せられなかったのですが、個人的には、震災で被害にあった人々に対してポジティブなメッセージを与えたかったという意向があったのでは、と感じています。何も言わずとも音楽で人々を支えていきたいというノラの人柄が現れている選曲だな、と納得。頑張れとか、応援している、とかそんな簡単な言葉では救われない日本の事態を考慮した結果、この曲にありついたのでしょう。SEX MOBのアドリブが炸裂する中、楽しそうに演奏するノラを見て、今更ながら、やはりノラはこうして皆の前で歌うのが好きで仕方ないのだな、と再認識。「Whatever Will Be, Will Be(ケ・セラ・セラ)」の演奏が終わると、SEX MOBは舞台の袖へ。ノラはSEX MOBが舞台上から去ったのを見届けると「小さい時からずっと彼らと演奏したかったのよね。」とジョークを返す形で笑いを誘っていました。さらに「今夜は来てくれてありがとう。そして私を呼んでくれてありがとう。」と挨拶すると、観客からは、「こちらこそ、ライブを開いてくれてありがとう!」との掛け声が。会場は大きな拍手と歓声で温かい雰囲気に包まれました。次にピアノソロで演奏し始めたのは、ひとときの恋人/Man Of The Hour。ノラの曲の中でも歌詞がユニークで、「あなたは一緒にシャワーも浴びないけれど」などドキッとさせるフレーズも多い曲。この「ひとときの恋人」は男性のことではなく、ノラの愛犬のことらしいのですが、客席からは歌詞の節々で、くすくすっという笑い声も。
ノラは「せっかくこの人がいるんだから一緒にこの曲を弾こうかしら」と話した瞬間、観客からは大きな歓声が。2003年のグラミー賞を総なめにしたノラの代表曲、「ドント・ノー・ホワイ」を提供したジェシー・ハリスが登場しました。ギターを抱えたジェシーを横目に、ノラは「彼が作った曲を歌うわ。でもこの曲、実はすごく前に作られた曲なのよね・・・信じられないわ!」と感慨深い様子。ジェシーのギターの音色も優しく響き、ノラのナチュラルな歌声と完璧な調和を繰り広げていました。
次に演奏したのは、ノラの2ndアルバム『フィールズ・ライク・ホーム/Feels like home』に収録されている、トム・ウェイツの「ロング・ウェイ・ホーム/Long way home」。「暗闇の中で躓き、私は一人ぼっち」という印象的な一節から始まる楽曲です。ノラは日本を支援するためにこの曲を歌っているのだと思うととても感慨深く、音楽の力、さらにアーティストたちの団結力に心が揺さぶられました。
ノラが、「次もまた古い曲よ」と言って曲紹介をすると、再度SEX MOBのメンバーが舞台に登場。ペギー・リーなど多くの歌手が歌ったことで有名な「Golden Earrings」を演奏し始めました。ジプシーに伝わる物語を描いた曲ということもあって、ステージは何とも妖艶な雰囲気に。
なまめかしくピアノを弾くノラを見て、新たな魅力を発見したような気がしました。それにしても今回のライブで驚きだったのは、ノラが今までにないほどリラックスしていたこと。昔から慣れ親しんでいるローワー・イーストサイドでのライブは、本当に居心地がよさそう。観客にも笑顔で手を振るなどのファン・サービスも見受けられました。
演奏が終わるとノラは、「ありがとう!」と元気よく挨拶し、幕が閉じました。長年ノラのファンだというアメリカ人の男性は、「ノラの音楽を聞きながら日本に寄付ができるのは素晴らしいことじゃないか。」と嬉しそうに話していました。さらに、イタリア、ジェノバから来たというカップルは、「ノラ・ジョーンズは、ジェノバでも大スター。こんなに近くで見られるのは最高!我々にとっても参加してよかったという素晴らしい支援だ」と興奮が隠せない様子でした。日本には特別な思い入れがあると話すノラ。このような形で被災地を支援したという事実は、これからもずっと語り継がれていくでしょう。
文 : Ayana Kizaki
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2011年10月30日:リトル・ウィリーズ/ニューヨーク ブルックリン「THE BELL HOUSE」公演レポート
October 30th,Brooklyn,New York
2011年10月30日:リトル・ウィリーズ/ニューヨーク ブルックリン「THE BELL HOUSE」公演2011年10月30日、ニューヨーク、ブルックリンのライブハウス「THE BELL HOUSE」でリトル・ウィリーズのライブが行われました。
THE BELL HOUSEは、こじんまりとしたお洒落なライブハウスで、アメリカの古き良きバーのような雰囲気。カントリー・ミュージックが流れる中で、カウボーイ・ハットをかぶっている人々に囲まれていると、アメリカの中西部にいるかのような感覚に。
次の日がハロウィーンということもあり、ゾンビやフランケンシュタインなどに仮装した若者たちも詰めかけ、パーティが開催されているかのような、賑やかな空間になっていました。今回のライブは、待望のセカンド・アルバム「フォー・ザ・グッド・タイムス」の曲を披露するというもの。ファースト・アルバム「リトル・ウィリーズ」の発売から実に5年が経過している中、レーベル関係者も「リトル・ウィリーズをこんなに近くで見れるのはかなり貴重な体験だ。」と興奮を隠せないようでした。午後8時。リトル・ウィリーズのメンバーが登場すると、観客は大きな拍手と歓声で迎えました。テンガロンハットをかぶりクールにきめていたのは、ボーカル/ギターのリチャード・ジュリアン。数多くのミュージシャンから尊敬を集めるギターのジム・カンピロンゴはカントリー・ミュージシャンのような渋い衣装で登場。ベースのリー・アレキサンダーとドラムのダン・リーサーは、素朴な雰囲気が魅力的で、とても穏やかな表情でした。特に注目を浴びたのは、やはりノラ・ジョーンズ。ボブのカーリーヘアーで、帽子と黒いミニのワンピースがとてもキュート!笑顔で手をふりながらピアノの前につくと「うわーたくさんの人が来てくれたのね!」と驚いた様子でした。
メンバーのかけ声と共に、最初に披露されたのは、スタンリー・ブラザーズの楽曲「アイ・ワーシップ・ユー(I Worship You)」ノラとリチャードの息がぴったりなこと!完璧なハーモニーを繰り広げていました。ノラはあくまでもバンドメンバーの一員と言った感じで、ピアノの演奏に専念している姿が新鮮でした。続いては、なんとファースト・アルバム「リトル・ウィリーズ」から「テネシー・スタッド(Tennessee Stud)」を披露。ギタリストのジムがイントロを弾き始めると「この曲聴きたかったの!」と観客の女性が叫んでいて、カントリー・ミュージックはアメリカ人の魂なのだと実感しました。ノラのしっとりとした歌声で始まったのは、40年代のカントリー・ソング「リメンバー・ミー(Remember me)」ノラが奏でるピアノの旋律によって、ジャズの要素が加わり、この楽曲は一気にモダンな雰囲気に。歌い終わった後、それぞれメンバーと目を合わせたノラ。「きょうはたくさん演奏するわよ!」とさけび観客を沸かせました。「Fist city」は、60年~70年代に活躍したロレッタ・リンによるカントリーソング。Fistは「こぶし」と言う意味で、浮気性の夫に言及した曲というだけで、色々な想像が沸いてしまいます。ノラの声にはパンチがあり、迫力満点。力強く自立した女性の姿が頭に浮かんできました。リチャードが「次は僕がメインで歌うよ」と話し、演奏をはじめたのは「ノー・プレイス・トゥ・フォール(No place to fall)」ファースト・アルバム「リトル・ウィリーズ」からの曲で、優しいギターの音色が響きます。リチャードの切ない歌声に、真剣な表情で、無言で聞き入る観客たち。ノラは仲間との演奏に居心地がよさそうでした。
続いて披露されたのは、ギタリスト、ジムによるオリジナル楽曲の「トミー・ロックウッド(Tommy Rockwood)」
メンバー全員が、曲の途中で「トミー・ロックウッド!」と叫ぶ、とてもユニークな曲。
リチャードが、「まだCD化されてないから、僕自身もかけ声を入れるタイミングがわからないんだけど…」とジョークを飛ばし「僕が合図したら"トミー・ロックウッド"って叫んでくれるかな?で、一番最後に叫ぶときはちょっとあきれたように。」とたくさんの注文が。「それってどうやるのよ?」と、ぼそっとつぶやくノラ。2人が掛け合う様子が面白くて、会場からは笑い声が溢れました。
リチャードが手で、合図すると全員が「トミー・ロックウッド!」と叫び、その出来にメンバー全員も満足そう。ノラは「私たちよりうまかったわね」と話し、観客一同、曲に参加できたことに感激していました。そして、「フォー・ザ・グッド・タイムス」日本版のボーナス・トラック「ディリアズ・ゴーン(Delia’s gone)」さらに「ワイド・オープン・ロード(Wide Open Road)」を立て続けに披露。共に、アメリカを代表する歌手、ジョニー・キャッシュが歌ったことで有名な楽曲です。
「ワイド・オープン・ロード」のギターパートではジムの演奏力が発揮され、超人的なギターテクニックに圧倒されました。
ノラが、演奏後に「ジョニー・キャッシュの曲はやっぱり素敵ね」と語っていたのが印象的で、カントリーソングを歌うことが大好きで仕方がないといった様子でした。続いては、アルバムのタイトルにもなっている「フォー・ザ・グッド・タイムス(For the good times)」ロマンチックな雰囲気となり、肩をくみ、音楽に合わせて体を揺らすカップルも。ノラもリラックスした様子で、リチャードは、目をつぶりながら甘い雰囲気に浸っているようでした。そして、突然雰囲気が一変。
「いまわしいフクロウ/ファウル・アウル・オン・ザ・プラウル(Fowl owl on the prowl)」が披露されました。
ホラー映画に使われているような曲で、ハロウィーンにぴったり!なんとノラのお母さんがすすめたんだとか。ノラのディープな声が響きわたり、古い洋館にいるような感覚に襲われました。続いての二曲は、ファースト・アルバムから。
「ベスト・オブ・オール・ポッシブル・ワールド(Best of All Possible Worlds)」では、観客全員が手拍子。
ベーシストのリーは軽く首を上下し、演奏を楽しんでいました。
突如ノラが立ち上がり、リチャードの横に並んだかと思うと「イッツ・ノット・ユー、イッツ・ミー(It’s not You, It’s me)」の演奏が始まりました。リチャードのオリジナル楽曲をしっとりと歌い上げるノラ。リチャードとノラが見つめ合う場面もあり、二人の間には強い絆があるのだな、と実感。次に披露したのは、セカンド・アルバムの曲「お金があればね(If you’ve got The money I’ve Got The Time)」1950年にカントリー・チャートの1位となった曲です。一流のメンバーが一つの場所に集まり、こうして最高の音楽を奏でている瞬間に立ち会えるなんて、なんて貴重な経験ができたのだろう、と感激しました。「この後は休憩です」と、ノラがアナウンスすると観客の一人から、「休憩中に何するの?」との質問が。「トイレ行ったりお酒飲んだりするのよ、あなた達とまったく同じ事をするのよ」とノラが答えると、会場にいた人からはくすくすと笑い声が沸きました。
ここまで観客とカジュアルに掛け合いをしているのは、今まで見た事がなかったので正直驚きましたが、ノラは元々、小さなライブハウスで観客と会話を楽しみながら曲を演奏するのが好きで、大スターになった今でもその部分は変わっていないのだ、と思うと、とても嬉しくなりました。そして、ジムによるギターの演奏が圧巻の「ローリー・ポーリー(Roly Poly)」で第2章は幕を開けました。
さらに、「生きてこの世は出られない(I’ll never get out of this world alive)」「ラヴ・ミー(Love me)」とファースト・アルバムからの楽曲を披露。「ラヴ・ミー」は情熱的な曲で、ノラの歌声を聴いていると切ない気持ちになります。周りを見渡すと、手を組み音楽に合わせてスローダンスをしているカップルの姿も。他の観客と目があわせれば、お互いに自然と笑顔になってしまうような、暖かい空間が生まれていました。
そして、待ちに待っていた曲!個人的に一番期待していた「ジョリーン(Jolene)」の演奏が始まりました。
言わずと知れたドリー・パートンによる名作ですが、2011年のグラミー賞で、ノラが、キース・アーバンとジョン・メイヤーと披露したことで、若者の間でも人気が出た曲です。ノラの歌声、さらに斬新なアレンジが最高で、ぜひCD化してほしいと思っていたのですが、リトル・ウィリーズのカントリー・テイストが加わり、グラミー賞の時とは違ったアレンジで楽しませてくれました。
演奏後には、割れんばかりの拍手!もう一回聴きたいとの声も聞かれ、今回のライブでは一番反応がよかった曲でした。
そして、こちらも貴重な未発表曲の「Milking Bull」タイトル通り、牛をモチーフにした曲で、ノラは「みんな、モーって言う準備できてる?今まではまじめな曲だったから、ちょっとSillyに、おちゃらけちゃいましょう」と一言。
手をつなぎ、回りながら激しく踊る観客の姿をみて、メンバーたちも楽しそうに演奏していました。
リチャードが、「僕たちのバンドの名前は、ウィリー・ネルソンにちなんだものなんだから、彼の曲を演奏するよ」と話し、披露したのが「パーマネンタリー・ロンリー(Permanently lonely)」。情感たっぷりの歌で、リチャードとノラの歌声は、調和をとっているだけではなく互いを高め合っている様子でした。演奏が終わると、またリチャードとノラの面白い掛け合いが炸裂。
ノラが突然「リチャード、あなたが夢に出て来て、私に何したかわかってるの?私はまだあなたを許していないんだからね!」とリチャードに詰め寄ると、「僕が夢にでてきたってことは、君は僕に恋しているっていうことなんじゃない?」とおちゃらけるリチャード。ノラはあきれた表情で、言う事が見当たらないといった様子で、二人の仲の良さが浮き彫りとなるような出来事でした。
さらに「アイ・ガッタ・ゲット・ドランク(Gotta get drunk)」の演奏で、ライブ会場は酒場の雰囲気に一変。ノラは、飲み物のカップを持ち上げ、乾杯の音頭をとるかと思うと、「実はこれ、お茶なんだけどね。」観客がずっこける仕草をみせ、リトル・ウィリーズのライブがだんだんとコメディ・チックになっているのが、おかしくてたまりませんでした。
「ラブシック・ブルース(Lovesick Blues)」はカントリー・クラシックとして人気の曲。
リチャードとノラの美しいハーモニーが続き、まさに天才の競演!歌いおわったらリチャードとノラが抱き合い、お互いの歌声を褒めているようでした。そして、オリジナル曲の「Pennies on the floor」は、ノラ節炸裂と言った感じ。ノラの声を聴いていると、とても癒され、嫌なことをすべて忘れることができる気がします。続いても、すごく楽しみにしていた曲。「ディーゼル・スモーク、デンジャラス・カーヴス(Diesel smoke, Dangerous curves)」です。ウェスタン・ムービーに出てきそうで、とても男っぽい、かっこよさ満載の曲。ディーゼル・カーが、エンジンを吹かして、荒野をいくような姿が目に浮かびます。ノラが歌う「デンジャラス・カーブス」のフレーズがとてもセクシーでクール。最後に力強くこのフレーズを歌った後は「Yeah!」と観客一同大盛り上がりでした。そしてラストの一曲となったのが、ファースト・アルバムの楽曲「ナイトライフ(Night life)」。締めの一曲としてはぴったりの曲で、夢のような時間がもう終わってしまうのだなと思うと、とても寂しい気持ちになりました。
曲を歌い終わり、リトル・ウィリーズが舞台から去ると、アンコールの嵐が。
期待に応えて登場したリトル・ウィリーズが、アンコール曲として演奏したのは、「ルー・リード(Lou reed)」。歌詞の節々に登場する「Cow Tippin’」は、「娯楽がない田舎に住んでいる人々がする遊び」で立ちながら寝ている牛を押して倒すことを意味しているそう。「大都会のNYを代表する歌手として、洗練されたイメージの、ルー・リードがCow Tippin’をしているのを見た」というフレーズは、ユニークで、何だか奇妙。私は、この歌詞を生み出した想像力に驚くばかりでしたが、アメリカ人の観客は大笑い。演奏が終わると、リトル・ウィリーズは一列に並び、拍手と歓声で包まれました。
演奏開始から3時間ほどが経過していたのですが、まったく時間の流れを感じさせないライブで、あっという間でした。
地元ブルックリンに住んでいるという男性は、「ノラとリチャードが一緒に演奏するということでライブに来たんだ。豪華なショーだった。アレンジがよかったし、曲のスタイルがよかった。」ミュージシャンだという男性は、「ノラ、リチャードの歌声や演奏はもちろんの事、ギタリスト、ジムの演奏を生で見れたのが最高。リトル・ウィリーズの魅力はなんといっても演奏力だ」と話していました。ハロウィーンの前夜に、ニューヨーカーのために特別な思い出を作ってくれたリトル・ウィリーズ。
楽しそうに、無邪気に演奏するリトル・ウィリーズの姿を見て、アメリカのカントリー・ミュージックがなぜここまで愛されているのかを学んだ気がします。ノラ・ジョーンズ、リチャード・ジュリアンを始め、現代が誇るミュージシャンの5人が一緒に演奏するという稀な機会に居合わせたのは、奇跡的なことだと感じました。文 : Ayana Kizaki
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2012年3月17日:テキサス州オースティン 「SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)」フェスティバル レポート
March 17th, La Zona Rosa 「SXSW FESTIVAL」
2012年3月17日:テキサス州オースティン 「SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)」フェスティバル秘密のヴェールを脱いだノラ・ジョーンズ新作初披露ライブ!
2012年4月25日、5枚目のオリジナル・ソロアルバム『Little Broken Hearts(リトル・ブロークン・ハーツ )』を日本先行発売するノラ・ジョーンズ。その収録曲が初披露されるライブが、テキサス州オースティンで開催されるSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)で行われた。
ダウンタウンを中心に、街全体がフェスティバルの舞台となるSXSW。公式発表されている会場の数は92、出演アーティストは2,000を越える巨大イベントで、ノラは2002年と2003年に出演経験がある。2002年はデビュー・アルバム『Come Away With Me(邦題:ノラ・ジョーンズ)』の発売翌月にあたり、世界的ブレイク、そして後のグラミー賞獲得のきっかけになったのがここでのライブと言われている。今回彼女が出演したのはLa Zona Rosa(ラ・ソナ・ロッサ)というキャパ1,000人前後の比較的大きめのライブハウス。だが、彼女の人気を考えれば極めて小さく、開場1時間前には彼女のステージを見ようと集まったファンや音楽関係者による長蛇の列ができていた。
開場から15分ほど経過すると、ステージにはまずサポートメンバーが登場。ステージ上手側からベースやギターのJosh Lattanzi(ジョシュ・ラタンジー)、ドラムのGreg Wieczorek(グレッグ・ヴィーチョレック)、ギターのJason Roberts(ジェイソン・ロバーツ)、キーボードのPeter Remm(ピーター・レム)の4人がノラのサポートを行う。そして最後、大きな歓声に包まれながらノラが登場した。冒頭の1曲は「グッド・モーニング」。ドラムの脇に置かれた木琴のような楽器とアコースティック・ギターの音色が静かに重なり合い、ノラの伸びやかなボーカルを導いていく。新作のサウンドの特色となるポストロックにも通じる壮大なスケール感は、ジェイソンのギターとピーターのキーボードによって演出されていた。続く2曲目は「セイ・グッバイ」。ジョシュがアコースティック・ギターからエレキへと持ち替え、ドラムセットに移ったグレッグが小気味良いリズムを刻んでいく。シングル・カットにも適しそうなポップな曲調と構成で聴き手を惹き込んでいく。
ノラがキーボードから赤いフェンダー・ムスタングに持ち替えたのは、アルバムのタイトルにもなっている「リトル・ブロークン・ハーツ」。黒と白のワンピースにボディーの赤がきれいに映える。フロアタムをベースにしたリズム上で歌われる虚ろ気なボーカルが曲名を象徴しているかのように思えた。その歌声は次の「彼女は22歳」にも続き、メローな雰囲気に包まれていく。「テイク・イット・バック」ではフェンダー・ムスタングを手放し、再び下手のキーボードに席を移す。浮遊感漂うサウンドからはじまるも、ひずみの効いたギターと徐々に手数を増していくドラミングによって曲調が変化していき、その雰囲気はそのまま「アフター・ザ・フォール」「4 ブロークン・ハーツ」にも引き継がれた。
後半戦のはじまりは「トラヴェリング・オン」から。ノラはThe Little Willies(リトル・ウィリーズ)の公演(3月15日にSXSWの別の会場にて行われた)でも使用していたピアノへと移動する。弾き語るノラに寄り添うのは、小ぶりのアコースティック・ギターに持ち替えたジェイソン。そんな2人の親密な光景とは裏腹に、奏でられる旋律はどこか物悲しく感じられた。「アウト・オン・ザ・ロード」では、それまでの雰囲気を一変させ、アップテンポなビートがオーディエンスの体を揺さぶる。繰り返されるサビのフレーズと、淡いコーラスがマッチして心地良い。合間のMCではオーディエンスと会話を楽しみ、再びキーボードへと移動するとシングル曲である「ハッピー・ピルズ~幸せの特効薬」を紹介。インターネット上で唯一公開されていた曲で、ノラ自身もその出来映えには満足しているという曲。弾むようなメロディーが聴き手に歓声と拍手を促していった。
ショーのクライマックスは「ミリアム」を聴いている最中に意識させられた。しっとりとしたバラードで、歌の軸はノラのピアノとボーカルにある。それだけでも十分に魅力的なのだが、ジェイソンの奏でるギターがそのスケールと魅力を何倍にも広げていく。Mogwai(モグワイ)やSigur Rós(シガー・ロス)を連想させるドラマチックな世界観は、ノラ・ジョーンズというミュージシャンの新たな地平を切り開いていくように感じられた。「来てくれてありがとう」と何度も繰り返し、最後の曲となる「オール・ア・ドリーム」へ。「ミリアム」からの流れで感動的に終わるのかと思いきや、ダークで荒涼とした空気が辺りに広がっていく。何を意図してこの曲を締めに持ってきたのかは想像するしかないのだが、この感覚はアルバムを通して聴くことで体感することができる。なぜなら今回のライブはアルバムの曲順のままに行われているからだ。そこから何を読み取るのか。それは聴き手によって異なるのだろう。
10年前、名門ジャズ・レーベル、ブルーノート・レコードからの期待の新人としてデビューした時から、その音楽性は変化を重ね続け今に至っている。新作の初披露というだけでなく、そういった側面もあるからこそSXSWでのライブが大きく注目されたのではないだろうか。のめり込むように聴き入っていたオーディエ ンスの反応は上々で、終演後には大喝采が巻き起こった。ここで見られた新しいノラ・ジョーンズの姿は、これからスタートする世界ツアーを通してヴェールを脱いでいくことになる。世界でどう評価されていくのか、そしてこれから彼女がどう変化していくのか。新しい一歩がいよいよ踏み出される時が来た。
<セットリスト>
1. グッド・モーニング / Good Morning
2. セイ・グッバイ / Say Goodbye
3. リトル・ブロークン・ハーツ / Little Broken Hearts
4. 彼女は22歳 / She’s 22
5. テイク・イット・バック / Take It Back
6. アフター・ザ・フォール / After The Fall
7. 4 ブロークン・ハーツ / 4 Broken Hearts
8. トラヴェリング・オン / Travelin’ On
9. アウト・オン・ザ・ロード / Out On The Road
10. ハッピー・ピルズ~幸せの特効薬 / Happy Pills
11. ミリアム / Miriam
12. オール・ア・ドリーム / All A Dream文:船橋 岳大/Takehiro Funabashi
写真:森リョータ -
2012年5月11日:ニューヨーク ブルックリン「THE BELL HOUSE」公演レポート
May 11th, Brooklyn, New York
2012年5月11日:ニューヨーク ブルックリン「THE BELL HOUSE」公演2012年5月11日(金)、ノラ・ジョーンズのスペシャル・ライブが、ニューヨークのブルックリンにあるライブハウスTHE BELL HOUSEで行われました。
THE BELL HOUSEは、もともと倉庫だった場所を改築したもの。音楽やアートの発信地と化した、ブルクッリンの良さがにじみでているお洒落で、こじんまりとしたライブハウスです。ノラが仲間達と結成したバンド、リトル・ウィリーズも去年10月にここでライブをしたということもあり、ノラのお気に入りの場所なのだろうと想像できます。もちろんチケットはソールドアウト。入り口には若者がごった返し、パーティが開かれているかのような熱気に包まれ、会場内は、500人ほどのキャパシティを超えるかと思うほどの多くの観客ですし詰め状態でした。午後9時半。辺り一面が暗くなったかと思うと、ノラがバンドと共にステージに登場。
黒いワンピースにピンクのベルト、そしてグレーがかった半袖のカーディガンに身を包んだノラは、地元であるブルックリンの友達が多く集結していたためか、いつも以上にカジュアルな格好でリラックスした様子。短い前髪にボブのカーリーヘアがとても似合っていて、キュートかつ大人っぽい雰囲気を醸し出していました。観客が一斉に大きな拍手で迎えると、会場を見渡しにこっと微笑み、早速キーボードで演奏を始めました。1曲目は最新アルバム『リトル・ブロークン・ハーツ』から「グッド・モーニング」。まさにライブの幕開けにふさわしい美しい曲で、ノラの優しくささやくような声が会場中に響き渡ります。2曲目の「セイ・グッバイ」は、ノラの新境地といったサウンドで、恋人に別れを告げる女性の心理を描いた曲。自立を決心した女性を代弁しているかのように、力強く、そしてナチュラルな歌声に、一同惚れ惚れし、静かに聞き入っていました。ノラが赤いフェンダー・ムスタングに持ち替えて、続いて披露したのが「リトル・ブロークン・ハーツ」。アルバムのタイトルにもなっているこの曲には、歌詞の節々に「ナイフ」「武器」「リベンジ」などといった言葉が重ねられ、少しダークな雰囲気に。いつになくかっこ良く演奏をするノラに、クールという代名詞が加わり、ノラの魅力が一段と増したよう。「彼女は22歳」も恋愛色が強い曲。「彼女はあなたのことを幸せにしているの?」と問いかける部分では、感傷的な気持ちになります。そして、「テイク・イット・バック」で、キーボードへと移ったノラは、「Now I see」と伸びやかに歌い上げます。ノラの世界に引き込まれていた会場に、しばらく沈黙が訪れた後、大きな歓声が響き渡りました。続いては、2009年に発表したアルバム『ザ・フォール』から「イッツ・ゴナ・ビー」。クールなビバップ・ジャズといった感じで、観客の中には曲に合わせて手拍子している人も。「アフター・ザ・フォール」を演奏し終わると、ノラが「きょうは新しいアルバムからたくさん演奏するわ!」と一言。「次は、今回のアルバムをプロデュースしたデンジャー・マウスの曲よ。」と言うと、会場は一気に盛り上がりました。
ノラが、私がいた辺りをちらちら見ていたので気になっていると、すぐ後ろに、なんとデンジャー・マウスの姿が。本人が見守る中、ノラはデンジャー・マウスの最新アルバム『ローマ』から「ブラック」を披露。ノラとデンジャー・マウスと同じ空間にいるとは、かなり貴重な体験に興奮してしまいました。「トラヴェリング・オン」では、ピアノへと移動。やはりピアノの前に座っているノラは安定感があり、この姿を拝めるなんて本当に来てよかったな、としみじみ。アコースティック・ギターの音色とノラの声がマッチし、少し寂しげな旋律が印象的。
続いては、ノラの名前をこの世に知らしめた1stアルバム『Come Away With me (邦題ノラ・ジョーンズ)』から、「コールド・コールド・ハート」。これには観客が大喜びで、ノラは、"You guys are easy!" 「あなた達、簡単に楽しんでくれるから良いわね」と笑いながら答えていました。「アウト・オン・ザ・ロード」では、雰囲気が一気に変わり、明るいアップテンポに合わせダンスする若者も。ノラが「皆ハッピーかしら?」ときくと、「Yeah!」「I love Norah!」とたくさんのかけ声が飛びました。そしてお待ちかね!プロモーション・ビデオで見せたノラの演技力と、スリリングな内容が話題となっている「ハッピー・ピルズ〜幸せの特効薬」。「GET OUT(出ていけ)」の部分では、こぶしをあげて一緒に歌う女性客もあり、女性の応援歌にもなっているのだなと感じました。そして「ミリアム」では、1節歌い終わった後に「もう一度やり直していい?」ときく場面も。ノラは「この曲では、いつも歌詞を間違えちゃうのよね」とカジュアルに語り、それに笑って応じる観客。ノラと観客の距離が一気に縮まった瞬間でした。ホラーな雰囲気に包まれたこの曲をエモーショナルに、しっとりと歌い上げた後は「オール・ア・ドリーム」。すべては夢だったというタイトル通り、現実との境を浮遊しているような感覚に襲われます。そして、舞台からバンドメンバーがいなくなると、一人ピアノへと向かったノラ。ピアノに手をおいたノラがイントロを弾き始めると、観客は大興奮!名曲「ドント・ノー・ホワイ」のソロ・ヴァージョンが披露されました。「ウォー」という雄叫びのような大歓声に、ノラはいったん手を止め、「ちょっとびっくりしちゃったわ」と苦笑い。テンポをスローダウンした特別なヴァージョンを演奏し始めました。観客一同、初めて聴くヴァージョンに心を打たれ、目に涙を浮かべ、感慨深くノラを見守る人々の姿もありました。また、3rdアルバム『ノット・トゥ・レイト』から、ノラの大のお気に入りだという「シンキン・スーン」。今までとは違ったバンドでの演奏、ロックの要素が加わったアレンジが面白く、このバンド全員が、一流のエンターテイナーなんだと実感しました。続いては『ザ・フォール』から「スタック」を演奏。「今日は来てくれてありがとう。最後の歌よ」と話し、披露したのは、1stアルバムの楽曲「ローンスター」。ライブの終わりとなるには最高の曲であると共に、名残惜しい気分に。
「ありがとう!」と挨拶をし、ステージを後にしたノラとバンドメンバー。アンコールの大合唱を受けると、バンド・メンバーがアコーディオン、ウッドベースを、そしてノラはアコースティックギターを抱えて登場。大きな歓声で迎えられました。マイクがステージの中央に一本だけおかれている状態で、一体何が始まるのかと思った瞬間、演奏されたのはなんと「サンライズ」!まさに奇跡的な生歌のライブで、なるほど!こうきたか!と唸らざるを得ない特別なサプライズに大感激。歌詞中の"Hooo"の部分では、会場中の人が体を揺らしながら大合唱。
最後にノラが「もう1曲やりましょう」と披露したのが、ハンク・ウィリアムスの「How many times have you broken my heart」 。あまり光に照らされていないステージを見ていると、ノラの家に招待されたかのような親近感がわいていました。演奏を終えると「ありがとう!!」と言い、深くお辞儀をしたノラ。「またブルックリンに帰って来てね」と大きな声援で見送られ、ステージを後にしました。ニューヨーク在住だという男性は、「小さな会場でノラを見れたのは嬉しかった。特に最後のアコースティック・ライブは最高だったね!友達に自慢するよ。」と嬉しそうに話していました。文:木嵜綾奈/Ayana Kizaki
<セットリスト> * ニュー・アルバム『リトル・ブロークン・ハーツ』より
1. グッド・モーニング/Good morning *
2. セイ・グッバイ/Say Goodbye *
3. リトル・ブロークン・ハーツ/Little Broken Hearts *
4. 彼女は22歳/She’s 22 *
5. テイク・イット・バック/Take It Back *
6. イッツ・ゴナ・ビー/It’s gonna be
7. アフター・ザ・フォール/After the Fall *
8. ブラック/Black
9. トラヴェリング・オン/Travelin’ On *
10. コールド・コールド・ハート/Cold Cold Heart
11. アウト・オン・ザ・ロード/Out On The Road *
12. ハッピー・ピルズ〜幸せの特効薬/Happy Pills *
13. ミリアム/Miriam *
14. オール・ア・ドリーム/All A Dream *
15. ドント・ノー・ホワイ/Don’t Know Why
16. シンキン・スーン/Sinkin Soon
17. スタック/Stuck
18. ローンスター/Lonestarアンコール
1. サンライズ/Sunrise
2. How many times have you broken my heart -
辛酸なめ子の「ノラ・ジョーンズに学ぶイマドキの“失恋ガール”」
ノラ・ジョーンズ最新作『リトル・ブロークン・ハーツ』のテーマは、ずばり「失恋」。
そこで、コラムニストの辛酸なめ子さんに、アルバムからピックアップした楽曲をテーマにイラスト&ミニコラムを書いて頂きます。ノラ・ジョーンズの描く失恋ソングからイマドキの失恋事情を紐解きます!?
第3話:セイ・グッバイ
精一杯吹っ切ろうとしているようなPOPな曲調のセイ・グッバイ。しかし歌詞を熟読すると、複雑な思いが交錯しています。「嘘をつけないなら恋愛関係を保つのは簡単じゃない」と歌ったあとに、「嘘をつきながら恋愛関係を保つのは簡単じゃない」と歌っていたり……。恋愛は正解がないようです。でも、「お願いだから帰ってきて」という一節にノラの気持ちが込められているような……。お辞儀して谷間を見せて彼を引き止めようとする最終手段に出たらしいノラ。そういえばケイティ・ペリーも、男性を落とすには「とにかく胸を見せるのよ!」と言ってましたっけ……。
歌姫たちの恋愛がうまくいくように、遠い日本から祈念いたします。第2話:ミリアム
かすれ気味のノイジーな声ではじまる「ミリアム」。最初は不気味な優しさを漂わせていたのが、次第に声は刺を増しついに「kill」という単語が出現……。スローなテンポで恐怖が迫ってくる感じが病み付きになって何度も聴いてしまう曲です。彼の浮気相手らしいミリアムという若い女子は、この曲を聴いて恐怖から彼の胸に飛び込み泣きじゃくったことでしょう。結局は逆キューピットとなってしまうノラの不器用さが切ないです。
第1話:ハッピー・ピルズ ~幸せの特効薬
最近髪を切ってきれいになったノラ。
何か心境的に変化があったのかと思ったら、「ハッピー・ピルズ」を聴いてなんとなくわかりました。一緒にいるとロクなことにならない災いを呼ぶ彼氏と縁を切ってすっきりしたんですね。「あなたがいなくなったら幸せのサプリを飲んだみたいにイキイキした気分」「追い出されてどんな気分?」とまで歌われています。彼は、ヒットしたこの曲がカフェや店で流れる度、いたたまれなくなることでしょう。彼女の頭の中からだけでなく、街中から閉め出された気分になりそうです。♪「ハッピー・ピルズ ~幸せの特効」
http://youtu.be/a9s0DCQJq4I