2011年4月8日:ニューヨーク 「Concert for Japan」チャリティ・ライヴ レポート

April 8th,Brooklyn,New York
2011年4月8日:ニューヨーク 「Concert for Japan」チャリティ・ライヴ

report201104

4月8日(金曜日)ニューヨークから日本を支援するチャリティ・ライブ「Concerts for Japan」に、ノラ・ジョーンズが参加しました。この日のライブ会場は、ローワー・イーストサイドにあるABRONS ART CENTERというコミュニティセンターで、約400枚のチケットは即日ソールドアウト。ライブの収益金が、すべて日本の被災地に寄付されます。
ノラ・ジョーンズをこのような小さな劇場で見られるのは稀だということもあり、入り口には人がごった返し、ちょっとした混乱状態に。会場には、一流の音楽を楽しみながら日本を支援したいというアメリカ人が多く詰めかけました。

このチャリティ・イベントの発起人、ジョン・ゾーンが「日本の震災に心を痛めている。同時に私の呼びかけで、こんなに多くのアーティストが集まったのは素晴らしいことだ。色んな想いを抱えて来ていると思うが、ぜひ楽しんでいってほしい」と挨拶をすると、ノラ・ジョーンズの親友であり、「ドント・ノー・ホワイ」の作者でもあるアーティスト、ジェシー・ハリス、さらにニューヨークで活躍しているジャズバンド、SEX MOBが登場。SEX MOBのメンバーが、「次に紹介するアーティストについては名前さえもよく知らないんだけど・・・」と話した途端、舞台の袖口からひょいっと現れたのが、なんとノラ・ジョーンズ。観客一同、SEX MOBのジョークに大笑いし、ノラを大きな拍手と歓声で迎えました。緑がかったグレイのワンピースを着て登場したノラは、少し大人っぽくなった印象だが、時に見せる笑顔には無邪気な子供のような愛らしさがたっぷり。
早速ピアノに手をおいたノラがSEX MOBと演奏し始めたのは、女優で歌手のドリス・デイが映画「知りすぎた男」の中で披露した「Whatever Will Be, Will Be(ケ・セラ・セラ)」。人生はなるようになる、明日のことなんて誰もわからない、というメッセージが込められている曲です。アップテンポのこの曲を、ノラはジャズのアレンジを交えて披露。久しぶりに生で聴くノラの声は、やはりスモーキー&ハニー。優しくもあり、切なくもあり、さらに今回の歌声にはいつも以上の力強さ、迫力も感じました。震災を受けたチャリティ・コンサートでこの曲を選んだのは、なぜなのか。その理由はノラ本人から発せられなかったのですが、個人的には、震災で被害にあった人々に対してポジティブなメッセージを与えたかったという意向があったのでは、と感じています。何も言わずとも音楽で人々を支えていきたいというノラの人柄が現れている選曲だな、と納得。頑張れとか、応援している、とかそんな簡単な言葉では救われない日本の事態を考慮した結果、この曲にありついたのでしょう。SEX MOBのアドリブが炸裂する中、楽しそうに演奏するノラを見て、今更ながら、やはりノラはこうして皆の前で歌うのが好きで仕方ないのだな、と再認識。「Whatever Will Be, Will Be(ケ・セラ・セラ)」の演奏が終わると、SEX MOBは舞台の袖へ。ノラはSEX MOBが舞台上から去ったのを見届けると「小さい時からずっと彼らと演奏したかったのよね。」とジョークを返す形で笑いを誘っていました。さらに「今夜は来てくれてありがとう。そして私を呼んでくれてありがとう。」と挨拶すると、観客からは、「こちらこそ、ライブを開いてくれてありがとう!」との掛け声が。会場は大きな拍手と歓声で温かい雰囲気に包まれました。

次にピアノソロで演奏し始めたのは、ひとときの恋人/Man Of The Hour。ノラの曲の中でも歌詞がユニークで、「あなたは一緒にシャワーも浴びないけれど」などドキッとさせるフレーズも多い曲。この「ひとときの恋人」は男性のことではなく、ノラの愛犬のことらしいのですが、客席からは歌詞の節々で、くすくすっという笑い声も。
ノラは「せっかくこの人がいるんだから一緒にこの曲を弾こうかしら」と話した瞬間、観客からは大きな歓声が。2003年のグラミー賞を総なめにしたノラの代表曲、「ドント・ノー・ホワイ」を提供したジェシー・ハリスが登場しました。ギターを抱えたジェシーを横目に、ノラは「彼が作った曲を歌うわ。でもこの曲、実はすごく前に作られた曲なのよね・・・信じられないわ!」と感慨深い様子。ジェシーのギターの音色も優しく響き、ノラのナチュラルな歌声と完璧な調和を繰り広げていました。
次に演奏したのは、ノラの2ndアルバム『フィールズ・ライク・ホーム/Feels like home』に収録されている、トム・ウェイツの「ロング・ウェイ・ホーム/Long way home」。「暗闇の中で躓き、私は一人ぼっち」という印象的な一節から始まる楽曲です。ノラは日本を支援するためにこの曲を歌っているのだと思うととても感慨深く、音楽の力、さらにアーティストたちの団結力に心が揺さぶられました。
ノラが、「次もまた古い曲よ」と言って曲紹介をすると、再度SEX MOBのメンバーが舞台に登場。ペギー・リーなど多くの歌手が歌ったことで有名な「Golden Earrings」を演奏し始めました。ジプシーに伝わる物語を描いた曲ということもあって、ステージは何とも妖艶な雰囲気に。
なまめかしくピアノを弾くノラを見て、新たな魅力を発見したような気がしました。それにしても今回のライブで驚きだったのは、ノラが今までにないほどリラックスしていたこと。昔から慣れ親しんでいるローワー・イーストサイドでのライブは、本当に居心地がよさそう。観客にも笑顔で手を振るなどのファン・サービスも見受けられました。
演奏が終わるとノラは、「ありがとう!」と元気よく挨拶し、幕が閉じました。長年ノラのファンだというアメリカ人の男性は、「ノラの音楽を聞きながら日本に寄付ができるのは素晴らしいことじゃないか。」と嬉しそうに話していました。さらに、イタリア、ジェノバから来たというカップルは、「ノラ・ジョーンズは、ジェノバでも大スター。こんなに近くで見られるのは最高!我々にとっても参加してよかったという素晴らしい支援だ」と興奮が隠せない様子でした。

日本には特別な思い入れがあると話すノラ。このような形で被災地を支援したという事実は、これからもずっと語り継がれていくでしょう。

文 : Ayana Kizaki

←SPECIAL一覧