• 2011年10月30日:リトル・ウィリーズ/ニューヨーク ブルックリン「THE BELL HOUSE」公演レポート

    October 30th,Brooklyn,New York
    2011年10月30日:リトル・ウィリーズ/ニューヨーク ブルックリン「THE BELL HOUSE」公演

    2011年10月30日、ニューヨーク、ブルックリンのライブハウス「THE BELL HOUSE」でリトル・ウィリーズのライブが行われました。
    THE BELL HOUSEは、こじんまりとしたお洒落なライブハウスで、アメリカの古き良きバーのような雰囲気。カントリー・ミュージックが流れる中で、カウボーイ・ハットをかぶっている人々に囲まれていると、アメリカの中西部にいるかのような感覚に。
    次の日がハロウィーンということもあり、ゾンビやフランケンシュタインなどに仮装した若者たちも詰めかけ、パーティが開催されているかのような、賑やかな空間になっていました。今回のライブは、待望のセカンド・アルバム「フォー・ザ・グッド・タイムス」の曲を披露するというもの。ファースト・アルバム「リトル・ウィリーズ」の発売から実に5年が経過している中、レーベル関係者も「リトル・ウィリーズをこんなに近くで見れるのはかなり貴重な体験だ。」と興奮を隠せないようでした。

    午後8時。リトル・ウィリーズのメンバーが登場すると、観客は大きな拍手と歓声で迎えました。テンガロンハットをかぶりクールにきめていたのは、ボーカル/ギターのリチャード・ジュリアン。数多くのミュージシャンから尊敬を集めるギターのジム・カンピロンゴはカントリー・ミュージシャンのような渋い衣装で登場。ベースのリー・アレキサンダーとドラムのダン・リーサーは、素朴な雰囲気が魅力的で、とても穏やかな表情でした。特に注目を浴びたのは、やはりノラ・ジョーンズ。ボブのカーリーヘアーで、帽子と黒いミニのワンピースがとてもキュート!笑顔で手をふりながらピアノの前につくと「うわーたくさんの人が来てくれたのね!」と驚いた様子でした。

    メンバーのかけ声と共に、最初に披露されたのは、スタンリー・ブラザーズの楽曲「アイ・ワーシップ・ユー(I Worship You)」ノラとリチャードの息がぴったりなこと!完璧なハーモニーを繰り広げていました。ノラはあくまでもバンドメンバーの一員と言った感じで、ピアノの演奏に専念している姿が新鮮でした。続いては、なんとファースト・アルバム「リトル・ウィリーズ」から「テネシー・スタッド(Tennessee Stud)」を披露。ギタリストのジムがイントロを弾き始めると「この曲聴きたかったの!」と観客の女性が叫んでいて、カントリー・ミュージックはアメリカ人の魂なのだと実感しました。ノラのしっとりとした歌声で始まったのは、40年代のカントリー・ソング「リメンバー・ミー(Remember me)」ノラが奏でるピアノの旋律によって、ジャズの要素が加わり、この楽曲は一気にモダンな雰囲気に。歌い終わった後、それぞれメンバーと目を合わせたノラ。「きょうはたくさん演奏するわよ!」とさけび観客を沸かせました。「Fist city」は、60年~70年代に活躍したロレッタ・リンによるカントリーソング。Fistは「こぶし」と言う意味で、浮気性の夫に言及した曲というだけで、色々な想像が沸いてしまいます。ノラの声にはパンチがあり、迫力満点。力強く自立した女性の姿が頭に浮かんできました。リチャードが「次は僕がメインで歌うよ」と話し、演奏をはじめたのは「ノー・プレイス・トゥ・フォール(No place to fall)」ファースト・アルバム「リトル・ウィリーズ」からの曲で、優しいギターの音色が響きます。リチャードの切ない歌声に、真剣な表情で、無言で聞き入る観客たち。ノラは仲間との演奏に居心地がよさそうでした。

    続いて披露されたのは、ギタリスト、ジムによるオリジナル楽曲の「トミー・ロックウッド(Tommy Rockwood)」
    メンバー全員が、曲の途中で「トミー・ロックウッド!」と叫ぶ、とてもユニークな曲。
    リチャードが、「まだCD化されてないから、僕自身もかけ声を入れるタイミングがわからないんだけど…」とジョークを飛ばし「僕が合図したら"トミー・ロックウッド"って叫んでくれるかな?で、一番最後に叫ぶときはちょっとあきれたように。」とたくさんの注文が。「それってどうやるのよ?」と、ぼそっとつぶやくノラ。2人が掛け合う様子が面白くて、会場からは笑い声が溢れました。
    リチャードが手で、合図すると全員が「トミー・ロックウッド!」と叫び、その出来にメンバー全員も満足そう。ノラは「私たちよりうまかったわね」と話し、観客一同、曲に参加できたことに感激していました。そして、「フォー・ザ・グッド・タイムス」日本版のボーナス・トラック「ディリアズ・ゴーン(Delia’s gone)」さらに「ワイド・オープン・ロード(Wide Open Road)」を立て続けに披露。共に、アメリカを代表する歌手、ジョニー・キャッシュが歌ったことで有名な楽曲です。
    「ワイド・オープン・ロード」のギターパートではジムの演奏力が発揮され、超人的なギターテクニックに圧倒されました。
    ノラが、演奏後に「ジョニー・キャッシュの曲はやっぱり素敵ね」と語っていたのが印象的で、カントリーソングを歌うことが大好きで仕方がないといった様子でした。続いては、アルバムのタイトルにもなっている「フォー・ザ・グッド・タイムス(For the good times)」ロマンチックな雰囲気となり、肩をくみ、音楽に合わせて体を揺らすカップルも。ノラもリラックスした様子で、リチャードは、目をつぶりながら甘い雰囲気に浸っているようでした。

    そして、突然雰囲気が一変。
    「いまわしいフクロウ/ファウル・アウル・オン・ザ・プラウル(Fowl owl on the prowl)」が披露されました。
    ホラー映画に使われているような曲で、ハロウィーンにぴったり!なんとノラのお母さんがすすめたんだとか。ノラのディープな声が響きわたり、古い洋館にいるような感覚に襲われました。

    続いての二曲は、ファースト・アルバムから。
    「ベスト・オブ・オール・ポッシブル・ワールド(Best of All Possible Worlds)」では、観客全員が手拍子。
    ベーシストのリーは軽く首を上下し、演奏を楽しんでいました。
    突如ノラが立ち上がり、リチャードの横に並んだかと思うと「イッツ・ノット・ユー、イッツ・ミー(It’s not You, It’s me)」の演奏が始まりました。リチャードのオリジナル楽曲をしっとりと歌い上げるノラ。リチャードとノラが見つめ合う場面もあり、二人の間には強い絆があるのだな、と実感。次に披露したのは、セカンド・アルバムの曲「お金があればね(If you’ve got The money I’ve Got The Time)」1950年にカントリー・チャートの1位となった曲です。一流のメンバーが一つの場所に集まり、こうして最高の音楽を奏でている瞬間に立ち会えるなんて、なんて貴重な経験ができたのだろう、と感激しました。「この後は休憩です」と、ノラがアナウンスすると観客の一人から、「休憩中に何するの?」との質問が。「トイレ行ったりお酒飲んだりするのよ、あなた達とまったく同じ事をするのよ」とノラが答えると、会場にいた人からはくすくすと笑い声が沸きました。
    ここまで観客とカジュアルに掛け合いをしているのは、今まで見た事がなかったので正直驚きましたが、ノラは元々、小さなライブハウスで観客と会話を楽しみながら曲を演奏するのが好きで、大スターになった今でもその部分は変わっていないのだ、と思うと、とても嬉しくなりました。

    そして、ジムによるギターの演奏が圧巻の「ローリー・ポーリー(Roly Poly)」で第2章は幕を開けました。
    さらに、「生きてこの世は出られない(I’ll never get out of this world alive)」「ラヴ・ミー(Love me)」とファースト・アルバムからの楽曲を披露。「ラヴ・ミー」は情熱的な曲で、ノラの歌声を聴いていると切ない気持ちになります。周りを見渡すと、手を組み音楽に合わせてスローダンスをしているカップルの姿も。他の観客と目があわせれば、お互いに自然と笑顔になってしまうような、暖かい空間が生まれていました。
    そして、待ちに待っていた曲!個人的に一番期待していた「ジョリーン(Jolene)」の演奏が始まりました。
    言わずと知れたドリー・パートンによる名作ですが、2011年のグラミー賞で、ノラが、キース・アーバンとジョン・メイヤーと披露したことで、若者の間でも人気が出た曲です。ノラの歌声、さらに斬新なアレンジが最高で、ぜひCD化してほしいと思っていたのですが、リトル・ウィリーズのカントリー・テイストが加わり、グラミー賞の時とは違ったアレンジで楽しませてくれました。
    演奏後には、割れんばかりの拍手!もう一回聴きたいとの声も聞かれ、今回のライブでは一番反応がよかった曲でした。
    そして、こちらも貴重な未発表曲の「Milking Bull」タイトル通り、牛をモチーフにした曲で、ノラは「みんな、モーって言う準備できてる?今まではまじめな曲だったから、ちょっとSillyに、おちゃらけちゃいましょう」と一言。
    手をつなぎ、回りながら激しく踊る観客の姿をみて、メンバーたちも楽しそうに演奏していました。
    リチャードが、「僕たちのバンドの名前は、ウィリー・ネルソンにちなんだものなんだから、彼の曲を演奏するよ」と話し、披露したのが「パーマネンタリー・ロンリー(Permanently lonely)」。情感たっぷりの歌で、リチャードとノラの歌声は、調和をとっているだけではなく互いを高め合っている様子でした。

    演奏が終わると、またリチャードとノラの面白い掛け合いが炸裂。
    ノラが突然「リチャード、あなたが夢に出て来て、私に何したかわかってるの?私はまだあなたを許していないんだからね!」とリチャードに詰め寄ると、「僕が夢にでてきたってことは、君は僕に恋しているっていうことなんじゃない?」とおちゃらけるリチャード。ノラはあきれた表情で、言う事が見当たらないといった様子で、二人の仲の良さが浮き彫りとなるような出来事でした。
    さらに「アイ・ガッタ・ゲット・ドランク(Gotta get drunk)」の演奏で、ライブ会場は酒場の雰囲気に一変。ノラは、飲み物のカップを持ち上げ、乾杯の音頭をとるかと思うと、「実はこれ、お茶なんだけどね。」観客がずっこける仕草をみせ、リトル・ウィリーズのライブがだんだんとコメディ・チックになっているのが、おかしくてたまりませんでした。
    「ラブシック・ブルース(Lovesick Blues)」はカントリー・クラシックとして人気の曲。
    リチャードとノラの美しいハーモニーが続き、まさに天才の競演!歌いおわったらリチャードとノラが抱き合い、お互いの歌声を褒めているようでした。そして、オリジナル曲の「Pennies on the floor」は、ノラ節炸裂と言った感じ。ノラの声を聴いていると、とても癒され、嫌なことをすべて忘れることができる気がします。続いても、すごく楽しみにしていた曲。「ディーゼル・スモーク、デンジャラス・カーヴス(Diesel smoke, Dangerous curves)」です。ウェスタン・ムービーに出てきそうで、とても男っぽい、かっこよさ満載の曲。ディーゼル・カーが、エンジンを吹かして、荒野をいくような姿が目に浮かびます。ノラが歌う「デンジャラス・カーブス」のフレーズがとてもセクシーでクール。最後に力強くこのフレーズを歌った後は「Yeah!」と観客一同大盛り上がりでした。

    そしてラストの一曲となったのが、ファースト・アルバムの楽曲「ナイトライフ(Night life)」。締めの一曲としてはぴったりの曲で、夢のような時間がもう終わってしまうのだなと思うと、とても寂しい気持ちになりました。
    曲を歌い終わり、リトル・ウィリーズが舞台から去ると、アンコールの嵐が。
    期待に応えて登場したリトル・ウィリーズが、アンコール曲として演奏したのは、「ルー・リード(Lou reed)」。歌詞の節々に登場する「Cow Tippin’」は、「娯楽がない田舎に住んでいる人々がする遊び」で立ちながら寝ている牛を押して倒すことを意味しているそう。「大都会のNYを代表する歌手として、洗練されたイメージの、ルー・リードがCow Tippin’をしているのを見た」というフレーズは、ユニークで、何だか奇妙。

    私は、この歌詞を生み出した想像力に驚くばかりでしたが、アメリカ人の観客は大笑い。演奏が終わると、リトル・ウィリーズは一列に並び、拍手と歓声で包まれました。

    演奏開始から3時間ほどが経過していたのですが、まったく時間の流れを感じさせないライブで、あっという間でした。
    地元ブルックリンに住んでいるという男性は、「ノラとリチャードが一緒に演奏するということでライブに来たんだ。豪華なショーだった。アレンジがよかったし、曲のスタイルがよかった。」ミュージシャンだという男性は、「ノラ、リチャードの歌声や演奏はもちろんの事、ギタリスト、ジムの演奏を生で見れたのが最高。リトル・ウィリーズの魅力はなんといっても演奏力だ」と話していました。

    ハロウィーンの前夜に、ニューヨーカーのために特別な思い出を作ってくれたリトル・ウィリーズ。
    楽しそうに、無邪気に演奏するリトル・ウィリーズの姿を見て、アメリカのカントリー・ミュージックがなぜここまで愛されているのかを学んだ気がします。ノラ・ジョーンズ、リチャード・ジュリアンを始め、現代が誇るミュージシャンの5人が一緒に演奏するという稀な機会に居合わせたのは、奇跡的なことだと感じました。

    文 : Ayana Kizaki

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